2020年1月に観た映画いろいろ(2020)

現在、noteで映画レビューなどいろいろ書いています。

「パラサイト 半地下の家族」 監督 / ポン・ジュノ

待ちに待った「パラサイト 半地下の家族」、パンフレットに濱口竜介監督も書いていたのですが「映画とはここまで面白くなくてはならないのかと、一監督として途方に暮れた」と書いてたのですがただの映画ファンなのに勝手にこのような気持ち私もなってしまいました。ただ、ここまで「ネタバレ絶対ダメ!」ってすごく言われないといけないような作品かな?と個人的には思いました。私はどうも「ネタバレ、ダメ、絶対」という触れ込みがあるとどうしてもその『ネタバレ禁止映画』フィルターを用意してしまう悪い癖があり、それが邪魔になってしまっていました。影響されやすいわたし…。

調子のいいこと言うソン・ガンホ、はもはや、愉快なブラック・ジャック、のように現代の映画を楽しむ者にとっては神殿のようなもの。映画は本当に面白くて美しくてとんでもなくて、食い入るように見入って、帰り道はキラキラのイルミネーションをものすごく落ちこんだ気持ちで眺め、帰りました。

劇中、パク一家が楽しそうに英語を使うシーンが多々ありました。一番最初にギウにパク一家を紹介してくれたギウの友人は、奥様はyoung and simpleだと教えてくれます。simple、というのはただ簡素、という意味だけでなくこの場合はやや知性が足りない、というような表現があります。

「エクストリーム・ジョブ」監督 / イ・ビョンホン

2019年に韓国では観客動員数1,600万人突破で歴代2位というメガヒット。(1位は2014年のバトル・オーシャン)すでにハリウッドリメイクが決まっており主演はケビンハートだって。思ったより若いキャスティングですね。

まったく成果が出せずもう後がないダメ刑事たちが集まった麻薬捜査班、勢い余って犯罪組織のアジト近くのチキン屋さんを買い取り24時間体制の潜入捜査を開始。しかしチキン屋さんが大繁盛。…という文字の並びだけで面白すぎますよね。しかしこのあらすじにもひとつ間違いがあります。それが全く思いもしなかったもので、気づいたときには椅子から転げ落ちそうになるくらい感動しました。

序盤、クドイ笑い演出にハハハと乾いた笑いを浮かべながらも最後はもうそれらの虜です。これでもかと笑わせにかかるその飽くなきサービス精神よ〜。劇中、場内は笑いっぱなしでした。

キャラクターの設定を大事にする姿勢にも好感が持てるばかり。キャラ立ちが本当にすごい。物語の中であまり語られない脇役も非常にコンパクトにその個性を攻めてきます。とにもかくにも、麻薬捜査班チームのキャスティングが本当にいい。リュ・スンリョンの地に足をつけた素晴らしい佇まいを中心に、他の4人が自由に輝きます。しかし、チキン、焼肉、本当に食べたくなります。

「フォード V フェラーリ」 監督 / ジェームズ・マンゴールド

ル・マンが24時間耐久レースということすら知らず、その過酷なルールを鑑賞中に初めて知り「え、なにそれ、めっちゃ大変じゃね…」となるぐらいカーレースについては知識が無かった私です。

すごく面白かった…たいへん胸が熱くなりました、観終わったあとに劇場を出て、開口いちばんに「フォード2世はせっかくのレッスンを受けたはずなのになんなんだあれは!バカなのか!」と烈火のごとく怒ったりもしました。(あのシーン、本当に本当にみているこちらとしても泣けてきちゃうほど言葉にならない感情が超押し寄せてきた最高のシーンなので余計に!)映画って楽しいですね。

マット・デイモンのなんでもかんでもデキすぎちゃうのに調整役に走り回る姿の輝いていること!クリスチャン・ベールのあの無鉄砲な感じと相手を煽るような言動もすごくイキイキとしていました。謝りにきたシェルビーに対し、買い物袋を抱えた短パン姿でハァ?何しに来たんすかァ?と対応しているところがたまりませんでした。

まさか敵は敵だけではなく…というトンデモなんだけど世の中によくある構造に対し、大事なこととは、冒頭とラストにも繰り返される質問の答えなのでしょうね。 The only question it matters: WHO ARE YOU?

「ティーンスピリット」監督 / マックス・ミンゲラ

監督のマックス・ミンゲラ、今作が監督デビュー作。「ラ・ラ・ランド」の音楽監督マリウス・デ・ヴリーズが音楽を手掛け、そして現代の「ミューズ」という概念の象徴ともいえるエル・ファニングが主演、なんといっても、歌います!という一本です。

チラシを見る限りでは観る予定は無かったのですがちょこちょこと目に入る面白かったよ報告に期待しました。結果、期待してよかったー、映画館で観てよかったー、大満足でした。チラシとの温度差がすごいオブザイヤーです。

イギリスの離島でお母さんと二人で暮らすポーランド系の女の子が、オーディション番組に挑戦するというとてもベタなシンデレラストーリー。とにかく冒頭の美しいショット連発にまず驚いてしまう。冷たい空気がこちらにも伝わってきそうなアイスブルーの空、フロレッセントピンクの書体でスクリーンに輝くキャストやスタッフの名前、透けてしまいそうなエル・ファニングのブロンドの髪と未来に思いを馳せる横顔。綺麗すぎる〜!一生みていられるような景色です。

エル・ファニングはいつものエル・ファニングで(それがいい)、無愛想で気の利いたことがなにひとつ言えず、裕福でないがゆえ学校以外は働きづめなのですがそんな生活でも歌を愛し、旧式ipodから流れる音楽を愛し、お世話をしている馬も本当に愛しているのが特に言葉なくスクリーンめいっぱいに非常に美しく語られます。

映画はとてもミニマムな作りで、そのシンプルさがこういったサクセスストーリーでは新鮮なほどです。しかし重ねていくオーディションのシーンたちは、その手があったのか!と膝をうちたくなるほど。荒削りだけど美しい、まさにダイヤモンドの原石!なエル・ファニングを余すことなく伝える演出が素晴らしいし、その期待に応えまくるエルの姿とその歌声!超必見です。

彼女が演じるヴァイオレット、彼女のような戦うイギリスのティーンは、こういう音楽が好きなのね〜となる選曲も良いです。とある曲を歌わされるシーンでは逆に死んだような目をしてるのも面白い。ていうか彼女の名前もめちゃくちゃよくないですか?ヴァイオレット。

「テッド・バンディ」 監督 / ジョー・バーリンジャー

1970年代にアメリカで起こった連続殺人の犯人であるテッド・バンディを題材にし、そのシリアルキラーをザック・エフロンが演じます。シリアルキラーという言葉は、このテッド・バンディのために作られたのだそう!

なんと当時、彼の裁判はテレビ中継がされました。いろいろあって自分の弁論は弁護士でなく主に自分で行ない、全くの無実であることを終始訴える彼には多くの熱狂的な支持者やファンがついたらしいです。劇中でも法廷で饒舌に語る彼の姿がありますが、その堂々とした振る舞いに魅了されてしまう人続出だったとのこと。どの時代や国にでも、こういった現象がおこるのだなということがわかりました。

映画の原題はExtremely Wicked, Shockingly Evil and Vile(裁判長が読み上げた文中にあった言葉とのこと)、その文字通り残虐性極まりないテッドの行ったことの数々を映画的に語ろうと思おうものならいくらでもその方向に振り切れるのですが、本作のアプローチはそういったものではありませんでした。テッドに「なぜか殺されなかった」恋人である女性が発表した回顧録を原作としており、その女性の視点から見た葛藤の物語でした。彼女をリリー・ムッチャ可愛い・コリンズが演じます。70sファッション似合いすぎる。

ザック・エフロンの古めかしいハンサム感が非常にいきていて、すれ違うだけで女性の心を掴んでしまうだけでなく全方位に放つひとたらしぶりがすごい。なんだけど、ちょっとずつ伝わってくる、彼の怖くなるほどの前向きさ、そして、なるほどこうやって…と感心してしまうほどの相手のコントロールさばきの恐ろしさ…

しかし、あのラスト、マジなのかしら…

監督はジョー・バリンジャー。テレビシリーズの「パラダイス・ロスト」はじめドキュメンタリーに長年携わってきており、テッド・バンディについてはこの映画の前にNetflixで「殺人鬼のとの対談:テッド・バンディの場合」を発表しています。

犬はヤベーやつを見破れる、という演出はここ最近観た映画でも2回目でした。

「リチャード・ジュエル」 監督 / クリント・イーストウッド

ポール・ウォルター・ハウザーが満を辞しての主演。しかもイーストウッド映画で。

彼が演じるリチャード・ジュエルという男、とにかく目が離せません。自分の好みを覚えてくれるのは嬉しいけどゴミから推測するとか。しかもなんでそれを申告して問題ないと思えるんだ!何よりもなんで黙ってろって言ってるのにいっこも黙ってくれないんだ!と見ていて本当にイライラ楽しい。犬でいうところのマズルがお肉ではちきれそうなほどにぱつぱつ。

ここはジョージア州なので…とベッドに並べる銃の数々、母親のため息、弁護士の「この依頼を引き受けたのは間違いだったかも」というような表情、これは本当にあったことなのでしょうか。全く笑える状況じゃないけど笑っちゃいますよね…。

私はリチャードに良く似たクラスメイトが小学生低学年のときにいたのですが、みなさんはどうでしょうか。あの当たり前のことをするあまりに疎ましがられるという図式を、そういった場面で私はどうしてたっけ、と苦さを感じながら思い出していました。そういう引き金をひいてくれるほどの、実在感。本当に見応えのあるキャスティングだと思います。

また今作のサム・ロックウェル演じるワトソン弁護士という人物の表現が素晴らしく、映画は電話越しの相手に喧嘩を売りまくっている彼の様子から始まるのですがそこから劇中途切れることなくほとばしる彼らしい強さがたまらなかったです。

ワトソンは、キラキラおめめに反してお口は大変悪いのですが、そのまっすぐな言葉で本当に優しく相手を褒め称えます。ヒーロー扱いをされている時にニュースのインタビューを受けるリチャードをテレビ画面越しに見ながら、Good for you Radar. あの美しいラストシーンでのLook at you. そういった言葉たちを聞きながら、こちらも大変胸が熱くなる思いでした。

リチャードもそうなのですが、ワトソンも、何を守り、何のために戦い、何を手を差し伸べるか、そういうことがよくわかっていて、手段の難しさとは別に心を決めることについてはとても簡単にできていることに驚くばかりでした。サム・ロックウェルは出演するにあたって本人と会ったそうなのですが、きっと彼のそういった人柄を直に感じたのでしょう。

おこがましいながらも、自分もこの世界でどういう人間でいたいか、そういうことを一番小さなスケールで考えることの大きな意味をこの映画を観てからずっと考えています。イーストウッドの映画はいつもそういう鑑賞後の余韻を与えてくえれますね。

アトランタジャーナルの女性記者においての脚色について。難しいですね。映画を観ている中でもなんて古臭い女性像だろうとは感じていましたが、映画を見終えてから調べてるうちに初めてこの問題について知りました。今作という映画において、ストーリーテリングの名の下にとった選択肢としては本当に良くないと思います。難しいですね。


「ジョジョ・ラビット」 監督 / タイカ・ワイティティ

みんなだいすき「マイティソー バトルロイヤル」のタイカ・ワイティティ監督作品。日本ではなかなか製作に関わった作品を観る機会が少なかったとのことですが、わたしだいすき「モアナ」の超・初期段階で脚本に関わってたみたいですね。

ヒトラーがイマジナリーフレンド、という映画のあらすじだけを聞いた時はどんな奇抜な作品になるのかなと感じたのですがそれとは全く違い、トロント映画祭の観客賞受賞からわかるように、まさに多くの人に愛される表現が詰まった映画でした。

スカーレット・ジョハンソン演じる母親の先進的な考え方や想像もつかないような勇気はもちろん、Do what you canなど彼女の伝えるメッセージの簡潔さが本当に豊かだなと思いました。「アナと雪の女王2」のエルサが歌っていたDo the next right thingを思い出します。ジョジョを叱ったあとにダンスするシーン、すごく泣けちゃいましたよね。踊ることが大好きだった彼女の軽やかなステップをいつも嬉しそうに眺めていたジョジョ。あの足元は、私たち観客も、あんなにも大好きだったのに。

また「リチャード・ジュエル」に引き続き今作でもサム・ロックウェルがかっこよくて…彼をとりまく状況なども、子どもの視点ということだからなのか、距離感を保った語り口がさらに胸を締め付けました。

原作の小説がCaging Skies。空と檻という組み合わせ、なんて恐ろしいことなのだろうとしみじみ思いました。