2020年2月に観た映画いろいろ(2020)

現在、noteで映画レビューなどいろいろ書いています。

「彼らは生きていた」 監督 / ピーター・ジャクソン

「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのピーター・ジャクソン監督作のドキュメンタリー。イギリスの帝国戦争博物館に保存されていた2,200時間を超える第1次世界大戦の西部戦線での記録映像を最新の映像技術を用いて修復や着色したものに、BBCが行なったインタビュー音声も組み合わせたものでした。映像修復の技術はとんでもなく、約100年前の映像とは全く思えませんでした。兵士たちの顔が一人一人本当によく見えます。若く、あどけない顔が目立ちました。

インタビューの音声は、同じ意見があったり、そうでもなかったり、とにかくたくさんの声を聞くことができます。どうして年齢をごまかしてまで、志願したのか。実際の戦場では、どんな状況だったのか。自由時間に楽しんだビールやギャンブル、たばこのこと。ささいなことも面白いと思い、みんなでゲームをしたこと。

ドイツ軍の捕虜たちと実際に話してみると打ち解けたこと。戦争が終わったその瞬間、なにも無かったこと。帰ってきたあとの家族や周囲のひとびとの冷たさ。

上映後、映画評論家の町山智浩さんのトークショーがありました。監督であるピーター・ジャクソンの祖父が第一次世界大戦に出兵していたことや、戦争に影響された他の著名人や作品について、またこの時代にどのような発明がなされてどのようにして戦争に影響を与えたかなどを解説。

時間いっぱいに繰り出されるあまりの豊富な知識に本当にびっくりしました。メディアによる撮影タイム中もそのお話しは止まることなく、一区切りついたところでさすがに時間オーバーしちゃいましいたね!ハハハと切り上げ、さっと劇場を後にされていました。すごい。

「ハスラーズ」監督 / ローリーン・スカファリア

つい先日行われた第54回スーパーボウルのハーフタイムショーでのみなぎる輝きが記憶に新しい、我らがJLo姐さんが製作も務めた今作。なんとノーギャラらしい。主演は「クレイジー・リッチ」のコンスタンス・ウー。ウォール街を舞台に、実話を元にしたクライムムービーです。こんなギラギラな世界とは無縁でしたが、リーマンショックが起きた2008年は私もニューヨークにいました。ちょうど大学を卒業したばかりで、就労ビザを希望していた多くの留学生が「この街に残りたいけど、無理かもしれない」という事態に陥ったことをよく覚えています。

「ハスラーズ」、すごく面白かったです。ストリップバーで出会った女性たちが、誰にも頼らず自分たちだけの力でやっていくぞ!とお互いや自分に言い聞かせるシーンが度々あり、そのメッセージが映画の間ずっとエコーしていました。しかしとても悲しいことにそういった言葉たちとは裏腹に、彼女たちがやっていたことは自立とは真逆である搾取の行いでした。どうしてもその方向へ舵を切るしかない彼女たちには、どうしようもない大きな力によって人生が動かされてきたというのが痛いほどわかるのでとても辛い。無意識に何もかもが繰り返されていると感じました。

そういった辛さはあるのだけど、彼女たちは生き抜くためにものすごい腕力や知恵も確かに持ち合わせていて、それを余すことなく発揮させる姿は非常にまぶしく、輝いて見えました。もうとにかくJLoが笑っちゃうぐらいかっこいい。屋上のシーンは私調べでは映画史に残るかっこよさです。それに食らいつくコンスタンス・ウー演じるデスティニーの賢さと真面目さもユニークでした。

二人の友情が、ぐちゃぐちゃになりながらも強く結びついてる様子には大変泣かされてしまいました。終盤のあるシーンでの二人のやりとりには魂がこめられてましたね。また、Motherhood is a mental illness(字幕だと『母親は全員イカれている』)というセリフが物語の中で長く強く効いてくるところもうまいな〜と思いました。デスティニーが嵐のような夜を過ごしたのちに大慌てで子どもを学校に送るシーンの切実さったらないです。すごい長回しだった。

めちゃくちゃイケてる女の子たちのイキイキした姿は見てるだけですごく楽しくて本当に笑えるし、劇中にさしこまれる音楽はどれもカッコイイ。LORDEのRoyalsが流れるシーンは痺れました。とあるスーパーゲストの登場シーンのキラキラ感はたまらなかったです。あれもよかったね、このシーンもすごかった!と、お友達といつまでも語りたくなる一本でした。

「 1917 」監督 / サム・メンデス

『全編ワンカット』(のように見せる)という演出がずいぶん前から宣伝などでおなじみでしたが、いざ観てみるとなんと大変なことをしているのだろうという気持ちでいっぱいに。監督がパンフレットのインタビューにて少し触れていたのですが、リハーサルでセリフや会話の時間と移動の距離を計り、それを元にセットを作っていくなど、どのようにしてこんな映画を作ったのかが少しわかるのですが読んでいるだけで途方に暮れてしまいました。通常の映画の50倍はリハーサルに時間を費やしたのだそうです。

特殊な演出であるゆえに鑑賞前は少し身構えていたのですが、私の大好きなタイプの映画でした。スクリーンいっぱいに映される絵や交わされる言葉たちがとてもポエティックで、個人的に『映画的表現』と思うものの中で大好きでたまらないストーリーテリングの魔法でいっぱい。伝令という名のもとの旅の中で交わされるヒューマニティの美しさ。何度も手を取り合うひとびとの姿がとても印象的でした。

ノーマンズランドの文字通り何も無さや、後半の争いの舞台は圧倒的な恐ろしさでしたが緑や花、歌声が響く森など自然いっぱいの情景は言葉を失うほどの美しさ。特に一本残らず切り落とされたチェリーの果樹園は悲しいけれど花がとてもきれいで、「もうここには何もなくなるのかな」というスコの問いに、家族がやっていた果樹園を手伝ってきたブレイクが「種が落ちれば、今よりももっと木が生える」というように答えていたのが忘れられません。

そしてまるでイギリス名優すごろくかのように次から次へと出てくる豪華俳優陣の出現ポイントも、見ていて楽しかったですよね。…なのですが、実は私、コリン・ファースに全く気付かずエンドロールを見てエッとなってしまいました。

この映画を観る前にピーター・ジャクソン監督の「彼らは生きていた」を観ていて本当に良かったです。