現在、noteで映画レビューなどいろいろ書いています。
同性愛の”治療”を目的とする矯正プログラム、コンバージョンセラピーに参加した時の実体験をまとめたガラルド・コンリーの著書(日本では未訳)が原作の映画です。
通っていた大学で起きたある事件をきっかけに、自身がゲイであることを両親にカミングアウトした主人公のジャレッドをルーカス・ヘッジズ、福音派の牧師である少年の父親をラッセル・クロウ、同様に熱心な信者の母親をニコール・キッドマンがそれぞれ演じます。すごいキャスティングですよね、特にこの両親、なんという面々だと思っていたのですがモデルとなったガラルド・コンリーの両親ととにかく見た目がそっくりでした。
父親は知り合いからの勧めにより息子をコンバージョンセラピーのプログラムに参加させることを決め、母親もこれに賛成します。「心の底から、自分を変えたいと思うか?」と息子に問う父。ジャレッドは力強く頷く。そして映画を見終わった私は改めて思い知るのですが、人は対話の際、時にその相手ではなく自分自身に話していることがあります。
ルーカス・ヘッジズ、トッテモ、素敵ですよね。やや神経質そうな立ち振る舞いをする役が似合うなあと若干20歳でオスカーにノミネートされた「マンチェスター・バイ・ザ・シー」の時に思いました。内に強烈な葛藤を抱える表現がものすごく上手い。(私の中では今、困らせたい若手俳優ナンバーワンと話題)
去年公開「レディ・バード」ではレディバードの憧れのおうちに住んでいた最初のボーイフレンドを演じていましたが、この時も真実を打ち明けるべきかと迷いながらも、目の前の相手には親切に接しようと頑張る姿がなんとも愛らしかったです。ジェシー・アイゼンバーグなどもそうなのですが私はこのやや眉毛の色素が薄い感じが、知的な眼差しを際立たせ、どうにも見逃せないチャームポイントに感じます。
(ところで、彼が自身のセクシュアリティについて語った記事も見つけました。彼は自分の性的指向を具体的には認識しておらず、”Hedges envies people who can speak about such things with more certainty.” (thingsとはsexualityを指しています)- 自分のことをしっかりと認識できている人に嫉妬してしまうという感覚を打ち明けており、私もこの気持ちにとても共感します)
そんなルーカス・ヘッジズが演じるジャレッドは本当に心優しい青年で、両親を敬い、周りにいつでも礼儀正しくあろうとし、施設で出会った他の参加者たちに対する優しい気配りも目立ちます。同性に惹かれてしまうことを両親に謝罪し、今の自分は間違っているんだと思い詰め、あまりに酷いセラピーが自分にとっていいものだと信じて真面目に取り組む姿には、ただただ胸が痛みます。
セラピーに参加する一部の面々をグザヴィエ・ドランやトロイ・シヴァンら、施設の職員をレッド・ホット・チリ・ペッパーズのベーシストのフリーが演じるなど、脇を固めると言うにはあまりに濃い存在感を放ちます。特にフリーが非常に恐ろしく、とあるシーンで彼が偏見に満ちた態度をスクリーンに充満させるのですが「デトロイト」のウィル・ポールターや「ビール・ストリートの恋人たち」のエド・スクラインに並ぶ恐ろしい・オブザイヤーでした。めちゃくちゃいい俳優ですね。公式であがっているインタビュー動画で自身の役について説明しているのですが彼の誠実さがぐんと伝わってきました。
また、施設でセラピーを行うカウンセラーをジョエル・エドガートンが演じているのですが彼はこの映画の監督・脚本・製作も担当しています。彼の情熱が映画のベースとなっています。
施設で行われていることやそれによって人々が深く傷ついていく様子を見ているのは本当に辛いものがあります。ですがこの映画という旅路の末に辿り着く場所と、明かされる「まさか」は必見です。人間の心についてまたひとつ知ることができるような思いでした。